第84回 生産性指標の設定と活用方法

生産性指標の有用性



1.生産性指標とは・・・

ものづくりを行っている多くの製造業では自職場の製造効率を推し量る指標として労働生産性指標を設定しています。我々コンサルタントの立場から見ても、この指標には種々の定義が存在し、会社によってもいろいろな算出方法があるため誰に見せたいか?誰が見るのか?によって、いろいろと使い分けられているようです。

【ものづくり現場でよく使われている生産性指標】
 ・直接労働生産性
 ・間接労働生産性
 ・総労働生産性
 ・出来高生産性
 ・付加価値生産性

生産革新第20-5

また、その確認頻度についてもさまざまで、月1回の結果確認としての運用であったり、日々の生産活動の見える化としての活用であったりします。

生産革新第20-5

これらの中で実際に改善活動を実施している製造業において最適な指標はやはり直接労働生産性ということになります。
これは、《その直接作業をするのに掛けるべき時間》/《掛った時間》の比であり、標準時間(ST=standard time)に対してどこまで守れたか、を的確に表した指標であるからです。100%であれば見込み(計画)通りの作業ができたということになります。
また、この指標は自らのものづくり現場の悪さ加減も如実に表してくれます。効率の悪い点を明確に見える化してくれるからこそ、そこに改善のメスが入るという観点からすると、この直接労働生産性はまさに現場の悪さの見える化指標とも言える有用なものです。
一方、付加価値生産性は当該作業によりいくらの付加価値を生んだかを推し量る指標ですが、付加価値の高いものが必ず作業時間が長いとは限りませんし、その逆もまたしかりです。よって、これは結果指標としての位置づけが強く、現場がコントロールすることは難しい指標となります。同様に出来高生産性も、短時間で作れるものと長時間かかるものを一律に1個とカウントして出来高で効率を測るというものでやや強引な考え方であり、やはり結果指標としての目安程度にしかなり得ず、ものづくり現場の改善活動には使えません。これらはいわゆる見せる化のための指標と言えるでしょう。
要は、その指標がどういう性格のものなのかをしっかり認識し、自らの改善活動や努力でコントロールできるものであるかどうか、が指標を決める上では重要です。

2.製造現場で活用すべき直接労働生産性

【定義】

生産革新第20-5

残念なことに、製造業で改善活動を推進している会社であってもこの直接労働生産性指標を活用されていない職場を多く見かけます。前述の通り、現場でコントロールできない指標を生産性として設定しても、それは結果指標にしかなりませんし、メンバーのモチベーション向上にも役立ちません。また、その確認頻度についても同様のことが言えます。月初に前月の結果をまとめて数値を出したとしても、もはや、対象の月は過ぎ去っており今からその月を良くしていくことはできないのです。つまり、結果指標と呼ばれるものを指標にすると、上司や他部門に報告すること(見せる化)が目的であればそれで良いのですが、ものづくり現場の活動には役立たないことに留意して活動指標は決めていくことが重要です。(下図参照)


生産革新第20-5


定義式における分母の直接作業時間とは製造業におけるものづくりに実際にかけた時間のことです。例えば1日8時間労働の職場があった場合、その8時間から間接作業時間を引いた時間とも言えます。間接作業とはモノづくりに直接関係のない時間のことであり、会社によって多少の定義に差はあれど、概ね、下記の様な時間を指します。

《間接作業》
朝礼/昼礼、作業前一斉清掃、安全衛生活動(委員会/ビデオ視聴)、教育(OFFJT、座学)、改善活動、標準類の整備、勤怠管理、試作・調査、定期校正、設備定期点検

一方、直接作業だけれども間接作業に間違われる作業としては下記の様なものがあります。
製品修正(手直し)、設備トラブル対応、品質トラブル対応、及び、これらに起因する文書の作成・打合せ・連絡対応、段取り・切替作業、仕様・規格確認のための電話・メール、日常設備チェック、シフト間引継ぎ、材料受入・払出作業、運搬作業、朝の準備作業、作業終了後の後始末(ゴミ捨て、清掃、記録)、作業差立て

これらはモノづくりの仕組みが不十分であるために派生するムダ作業とも言え、なくしていく、または短くしていくべき作業ということになります。

生産革新第20-5

次に分子の掛けるべき時間について説明します。基本は本作業と呼ばれる付加価値作業に対する標準作業時間(=ST)を設定することから始めます。それに加えて、その付加価値作業をするのに現時点では避けることのできない作業(=付随作業)についてもSTを設定する場合もあります(例えば受入れ作業や切替作業、運搬、後始末等)。
ここで重要なのは一度設定したSTや標準作業項目は活動期間中は変更してはならないということです。期間中にこれらを変更したら改善が進んでいなくても生産性が上下してしまうことは容易に想像できると思いますが、実際には、STが不正確だから、あるいはSTを設定し忘れていた作業があるから、といった理由によりどんどん変更を重ねてしまう事例が後を絶ちません。これでは正確な改善活動の成果が見えなくなってしまいます。

【運用】
この直接労働生産性指標を運用する意義は、STを決め、常にこのSTに沿った作業時間で作業を完了させることで効率を常に一定に監視することができるということです。 繁忙期であれ閑散期であれ、同じ製品に掛けるべき時間は同じはずですが、実際のものづくり現場では日単位で生産数が減ると間延び作業が横行し、物量に応じて現場作業者が作業スピードを調整してしまうことが頻発しますので、これを防ぐ意味があります。間延び作業が行われたら即刻、当日の生産性がダウンしてしまうことから現場作業の指標としてはとても有用なものとなります。
同様に、設備/品質トラブルが発生した場合も、この指標はセンシティブに反応します。1日の作業時間は変わっていないのにアウトプットが落ちる訳ですから当然と言えます。まずはこの指標を設定して、日単位で自職場の効率の見える化をすることがものづくり現場での改善活動の第一歩としてはとても重要です。

次回は直接労働生産性指標の設定ノウハウについて説明していきます。

株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 チーフコンサルタント 藤居 隆一
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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