第65回 部門・組織を越えた改善の進め方

1.改善を推進するための組織構造

企業組織の形態には、機能別組織、マトリックス型組織、プロジェクト型組織等がある。(図1)


生産革新第20-5


機能別組織は機能もしくは職能や事業部・エリアなどの単位で分けられた組織であり、企業経営を行う上で基本となる形態で、マトリックス型組織は2つの機能(例えば職能と事業部)をマトリックス配置した組織である。プロジェクト型組織は、機能組織から独立したプロジェクト事務局を設けて、必要部門からメンバーを招集し、プロジェクト的な業務に対応する組織。プラントや一品受注型企業での大型案件に当たる場合に多く適用されることからもわかるように、環境変化や顧客ニーズへの柔軟対応時、かつ有期性のある業務で最も強みを出す組織構造といえる。

全体最適な視点に立った改善組織は、おのずと組織横断型になり、プロジェクト型組織が最適のように思われる。しかしすべての企業で採用できるわけではない。またプロジェクト型組織は継続的な改善を行う上で、技術やノウハウの継承という意味で弱点があることには留意が必要だ。 それでは機能別組織やマトリックス組織をとる企業において改善組織体制はどのように編成すればよいのだろうか。

 

図2(A)のプロジェクトは多くの企業での改善活動で採用される形態である。トップからの要請で各部門から選ばれたメンバーで組織が編成されるため設立が容易だ。しかしプロジェクトのマネジメント層内、プロジェクト実行部隊内の調整がやりにくいため、活動成果を早期に刈り取ることを考えると運営面に難しさがある。 一方、図2(B)は機能別組織とプロジェクト型組織の折衷的な組織です。この体制では主幹部門(図では管理部)が主体となりプロジェクト運営を行うため活動の方向付けがぶれにくくなることが特徴だ。ただしプロジェクトメンバーはそれぞれの部門に所属したまま活動に参画するため、主幹部門以外の部門の関わり方に課題はある。


生産革新第20-5


それでは、改善組織内の構造はどうあるべきなのか。図3は折衷型改善組織におけるプロジェクト体制の典型例である。図の全体最適化事務局はすべてのプロジェクトの管理を行う機能を持ち、図1(C)のPJ事務局に近い機能だ。ただし折衷型の場合、基本的には専従者がいないため、組織編制の時点で専任を任命することとなる。そして専任の活動をサポートするために支援メンバーを指名する。通常は主幹部門以外の部門長が当たる。専任はトップとPJメンバーをつなぐだけではなく、支援メンバーの協力の下、さまざまな利害関係の調整なども行う。


生産革新第20-5


忘れてはならないのは、プロジェクト型にもいえることであるが、折衷型の改善の取組みは完全に定常業務の外にあるということだ。したがってプロジェクトによって生み出された成果を定常業務に埋め込んでいく標準化作業も全体最適化事務局の重要な任務の1つとなる。(図4)


生産革新第20-5


2.部門・組織間に跨る問題点とその背景

全体最適な改善を進めるための阻害要因にはどのようなものがあるのだろうか。多くの場合は、部門や組織間に跨る組織構造上の問題がその背景にあるようだ。確実な成果を出せる改善の取組みを実現するためには、まずは現状の自社の組織構造を精査して、部門間だけではなく顧客や調達先などの外部環境をも考慮したバリューチェーン上でうまく働いていない機能を特定する必要がある。以下に筆者がコンサルティングで経験した組織構造に関連した問題の典型的事例を挙げる。多くの読者に1つは思い当たる節があるのではないだろうか。

 

① 組織が外部環境の変化に追従できない

過去の量産型生産をベースとした業務形態で、多品種少量型生産への対応ができていない場合や、事業規模が拡大してきたが、小規模時の生産形態のままで、新たな市場や顧客に適応するための業務見直しが進まない。意外と組織構造を変化させる必要性を感じていない企業が多い。

 

② 改善活動の結果が経営成果につながらない

全社的な改善の取組みへの意欲は高いが、コストダウンなどの改善を各部門でバラバラに実施するため、結果的に部分最適な改善活動に留まっている。その結果、改善活動の結果が経営指標に反映されない。筆者の私見が若干入るが、図2(A)で示したプロジェクト体制をとっている会社が多いように感じられる。

 

③ 部署間の連携がうまくいかない

多くの業務が属人化しており、社員の配置換えが起きるたびに業務の流れの滞りの頻発や、調達品の遅延や図面間違いなどの不具合の発生時に責任の擦り合いに終始して、根本対策がなかなか取れない、いわば部署間の連携がうまくできない企業が多く見られる。従業員1人ひとりのレベルで見ると、何事も現状肯定から入り、「仕方がない」との声が方々で聞かれる。

 

④ システムの活用がうまくいかない

過去に業務のシステム化を進めたが、時間が経つとシステム立ち上げ当初のメンバーが異動になる場合や、組織改変によりシステムが実業務と合わなくなる場合がある。そのような状況ではマスターデータのメンテナンスが疎かになり、一部機能は使えなくなり、運用していても誰が必要としているのかがわからないこととなる。これはITシステムの話だけではない。標準類の改廃が何年も行われていない会社にも当てはまる場合が多い。



株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 シニアコンサルタント 吉久 康樹
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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