第68回 指標管理による業務革新の「見える化」

1.業務革新の目的・課題・目標の「見える化」

業務革新を遂行する上で最も重要なのは何かというと、その目的の明確化であり、通常はトップマネジメントの意思が強く反映されることになる。例えば「顧客要求納期遵守率100%を達成することにより競合他社に対して優位性を確保して、シェアアップに繋げる」という戦略を掲げた場合、製造部門は設備トラブルの半減や品質不良率の低減を目標に掲げることとなるであろう。それでは対策を打つべき設備とはどの設備であろうか。MTBF(Mean Time Between Failure)が悪い設備であろうか。品質対策は不良率の高い不良に注力すべきであろうか。当然だがMTBFが悪くてもすぐに復旧する設備の対策や、不良率は高いがボリュームゾーンの品種には発生しない不良はトップの要求達成に対する寄与は小さいはずだ。革新の実行部隊が正しくその目的を理解することで、それぞれの部隊の正しい課題と目標の設定に繋がるのだ。


2.デザインアプローチとは?

トップからの要求から正しく目的を設定するためには戦略・戦術・戦法が一貫している必要がある。しかし多くの革新業務は往々にして改善の取り組みは部分最適化してしまう。全体最適な取り組みにするために有用で、我々がコンサルティングの中でも活用しているのが図1に示すデザインアプローチという手法なのだ。


生産革新第20-5


デザインアプローチではまず現状の把握とあるべき姿の明示化を行い、両者の間にあるギャップを見える化する。そうすることによってギャップ(問題)から解決すべき課題が具体化されるのだ。具体化された課題によって取り組み方が明確となり、最短経路での改善が可能となるはずだ。コンサルタントの立場から言うと、問題を正しく把握してそれを課題化し目標設定するという最初の段階での躓きが多くの企業の改善停滞の背景にあるように思われる。当然ではあるがあるべき姿を描く時にはシステム(内部)の議論だけでは不十分である。SWOT分析、5―Force分析、3C(Customer、Company,Competitor)分析などを活用し、社外環境との関わりから発生する要求や制約との整合性を取る必要がある。



3.システムの問題を「見える化」する

業務革新を行うためには全体として問題を共有する必要があることは間違いない。しかし部署毎にそれぞれの利害があることを考えると工場や事業所全体の問題を全員が共有することは至難の業である。そこに工場を一つのシステムとして見える化することの困難さがありそうだ。それでは工場や事業所のシステムを見える化する手法にはどのようなものがあるのだろうか。我々がコンサルティングの場で用いるのは、まずは多くの企業ですでに整備されている職務分掌表と業務フローを用いる。図2は大きくはシステムと外部環境との関わりを示している。インプットとアウトプットはモノの流れであり、場合によっては情報の繋がりを示す。



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システム内部に注目すると複数のサブシステムがある。サブシステム間はインプットとアウトプットの繋がりとして表される。業務フロー図はこのようなインプットとアウトプットの流れを明確にすることで業務のプロセスを見える化するツールの一つである。主業務を中心に描かれることが多いようだ。このフローにより部署間に跨る業務記述の曖昧さや業務の流れが不自然に途切れるといった形で、システム上の問題が顕在化される場合がある。逆に組織内での過剰な業務記述や詳細すぎる業務フローにも何らかの問題が隠されている可能性が見えてくる。図3は業務分掌や業務フローから、ある業務における部門間の関わりを構造化したものである。例えばノード2を生産管理、3を資材、5を製造とすると、資材と生産管理の間には対立した関係がある。実際には課長同士の中が悪いといった原因があることもたびたびであろうが、機能として捉えると両者間の納期調整機能が弱い状態である。一方で資材と製造の間には非定常業務がある。これは特定メンバーの遣り取りによって納期遅延の問題を解消しているといった現状把握となる。ここで重要なポイントは、最初から現状システムの問題点に切り込むのではなく、現状システムの機能を正しく記述することから始めることにあるということだ。



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続いて新しい顧客要求や環境変化を踏まえたときにシステムのどこにどのようなプロセスの追加や変更を加えればあるべき姿に近づくかを検討することとなる。先ほどの例に戻り、市場変化により益々顧客要求納期遵守が求められてくるとする。そうすると属人的な納期管理の仕事では対応しきれない面が増えることが予想される。したがって資材と生産管理での納期情報の共有の強化といった決め事が必要となるであろう。言い換えると非定常業務を定常業務に取り込むためのルール化が必要であることが見えてくるのだ。しばしば業務革新が上手く行かないといった話を聞く。その背景には初めからシステムを構成する個々のタスクの問題解決に切り込むことがある。タスクを受け持つ部署間の価値観のぶつかり合いや利害関係が生じて議論が進まないことがあるのだ。問題を部署間の連関システムとして見える化することで建設的な議論に繋げることが初めて可能となるのだ。



4.システム問題の捉え方

システムの問題を大局的に見ると2つに分類できる。一つはボトルネックによる問題であり、もう一つはクリティカルパスによるものである。ボトルネックとは一連のタスク(業務)の流れの中で全体の能力を律速する業務を指す。図3では生産管理と資材間の納期管理機能がボトルネックとなる。システムの問題として起きる場合は、能力不足よりも部門間レベルでの工数マネジメントに関係して発生することが多い。システムの問題の場合はむしろクリティカルパスが重要である。クリティカルパスは複数の業務フローの中で、最も業務時間を要するフローを意味する。このような場合は部署単位ではなく機能(業務)単位で状態を把握する必要がある。PERT図や時間を軸とした部署毎のスイムレーンチャートで表す情報タイミング図を用いて特定する。

図4に示すPERT図では、業務開始の①から業務完了の⑬までの所要時間は、赤矢印で繋いだクリティカルパス上の業務によって律速されることが分かる。たびたび業務遅延が発生したとすると、このシステムの改善のポイントはクリティカルパス上の業務の集中改善である。業務③の所要日数が9日と長いことから業務③従事者の能力不足解消といった工数マネジメント上の対策が考えられる。この場合はボトルネック対策と等価である。



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しかしクリティカルパス管理の場合、工数マネジメントの問題だけでなく時間マネジメントの問題の検討も必要である。例えば業務⑦の従事者がクリティカルパスの存在を無視(知らず)して業務③従事者にたびたび早い要求をしたとしよう。そうすると業務③の混乱が発生し、結果として所要日数が延びる可能性もある。このような場合、業務③と業務⑦の従事者間の取り決めを整備することが必要となる。

製造業で業務革新を行うということは、工場や事業所システムの構造にメスを入れることに他ならず、部分的な対策では効果は十分には期待できない。問題をシステム全体の中で捉えて、その機能の見直しを行う必要がある。必然的に部門横断的な取り組みになるため、その目的と成果を関係するすべての人が客観的に把握できることが求められる。業務革新の状況の見える化がカギを握っているのである。
次回はシステムのパフォーマンスを見える化するための指標とその活用方法の紹介を行う。



株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 チーフコンサルタント 吉久 康樹
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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