第80回 生産設計によるコストダウン

「生産設計とは」



1.製造業における生産設計の目的と実態

「生産設計」と言いましても会社ごとにいろんな定義がありますし、広義と狭義もあります。ここでは生産設計の定義を「設計部門が顧客要求に沿って作成した設計内容を、製造視点、技術視点、調達視点、営業視点でもう一度見直し、より安く作るための知恵や工夫を加えて再設計する」といたします。
次に生産設計の目的について説明させていただきます。生産設計は非常にデザインレビューに近い考え方ですが、デザインレビュー(DR)よりもよりコストに関するレビューが中心になりますのでコストレビューといった位置づけになります。一般的に設計コストダウン活動は材料費のみを下げる活動になりがちであるが(VE等)、本格的な設計改善では材料費のみではなく製造費低減にもつながります。

皆さん、ところで「生産設計」は皆さんの会社で実施されていますか?多分仕組みとしてコストレビューが定着しているお会社は少ないと想像されます。なぜならば直近の設計業務に忙殺されて、生産設計までフォローされている会社は少ないようです。コストダウンする場合に、生産設計は有効な手段ですがやる時間がないのが実態ではないでしょうか。多くの会社では、作りやすさを反映させるための生産設計を行っていない。製品設計した後にそのまま製造に入るためものづくり現場作業の複雑さなど不必要な時間やコストがかかっています。
御社の会社・設計開発部門も、もしかしたら同じではありませんか?
今回の生産革新講座ではこのきわめて重要な経営課題と、その解決策に迫ってみようと思います。


2.製造業における生産設計のあるべき姿

生産設計が不足しているとどんな問題が発生するでしょうか?
・部品点数の増加、共通部品化の遅れ、パターン化・ユニットの遅れ
・特殊材料や特殊加工方法、特殊表面処理などの起因する材料コストアップ
・材料選定ミス、調達先選定ミスによる高コスト購入
・部品組み立て作業コストや機械加工コストを考慮していない(人件費アップ)
が発生します。この問題点の原因を探ると、生産設計によるコストダウンを進めるためには、設計効率向上と設計リードタイム短縮を実現することにより創出された時間で「生産設計」を行う時間を創出することが重要です。


生産革新第20-5


3.生産設計での確認項目

先ほど生産設計の定義を「設計部門が顧客要求に沿って作成した設計内容を、製造視点、技術視点、調達視点、営業視点でもう一度見直し、より安く作るための知恵や工夫を加えて再設計する」といたしましたが、それぞれの時点での確認項目を掘り下げてまいります。

生産革新第20-5


●営業視点での確認項目

機能とコストの関係把握   V(付加価値)=F(機能)/C(コスト)
売価と利益と原価の適正化

 

●調達視点での確認項目

見積り比較を行ったか
単価設定に基準は明確か
調達リードタイムは適切か
発注ロットは過剰になっていないか
発注先は問題のない企業か

 

●技術視点での確認項目

過剰設計になっていないか
特殊条件や特注品を使っていないか
特殊工程を設定していないか
個々の部品の性能保証はあるか
新技術の投入は慎重に進めたか
素材や材料品質は適正レベルか
材料歩留まりなどは適切か
直行率を悪化させる要因はないか

 

●製造視点での確認項目

加工方法は適切か(曲げ、抜き)
新規部品はどれだけあるか
初めて行う作業や処理はないか
工程フロー、作業手順は明確か
作業工数設定は適切か
基準日程計画は正しく作られているか
トータルリードタイムは適切か
外注加工の内容確認


以上です。細かくはもっとあるかもしれませんが、大きくリードタイムに影響を与える項目(品質トラブル、作業性悪化、計画不良、外注)の注目して確認する必要があります。


4.生産設計のタイミングとコンカレント設計

生産設計は、基本設計後と詳細設計後の2回行うのがベストである。できるならば出図前に修正することは非常に大切になってきます。そのために用いられる手法が「コンカレント生産設計方式」です。コンカレント(同時並行)エンジニアリングとは、企画・設計などの上流工程と、製造・試験などの下流工程を同時並行的に実施し、開発プロセスを可能な限り短縮化する手法です。
生産設計を進めるためにはコンサルティングを通じて各部門の組織の壁を取り払い、設計スタイルをコンカレント型(特に後工程が前工程を牽制及びコントロール)にシフトする必要があります。コンカレント型設計の情報の流れは双方向で上流から下流へ状況によっては下流から上流へ流れます。下流側(工場側)情報品質レベルよりも早期受け入れを優先させることにより共同で完成度を高めていくことになります。結果としてトータルリードタイムを短くすることができます。
ただし上流側の完成度レベルを見極めたうえでコンカレント設計を導入しないと逆効果の懸念が生じる場合がありますので注意が必要です。


生産革新第20-5


5.製造業における生産設計を実現するための5つの切り口

ここまでの流れで、コストダウンするためには生産設計を導入する重要性は理解いただけたと思います。それでは生産設計を実現するためにどのように設計部門の時間を創出していけばよいかを説明いたします。それには5つの切り口での進め方が必要です。


生産革新第20-5


① 確定情報での設計

受注前活動の強化・選択式見積仕様書の確立を通じて、設計部門の手戻り作業を削減していきます。

 

② 設計の見える化

基準日程の見える化・業務負荷の見える化・部門間ロスの見える化を通じて悪さ加減の見える化をおこないます。

 

③ 設計思想の標準化

設計思想の確立・標準化設計/流用化設計/組み合わせ設計を通じて標準化によるコストダウンと設計時間削減(新図を描かない)を図ります。

 

④ 設計効率向上

業務価値の定義・ムダの創出・自己時間分析から、テーマの優先順位付けを行いテーマ設定します。

 

⑤ 設計管理の強化

案件別管理(大日程管理)、設計工程管理(中日程管理)、週間スケジュール(小日程管理)を通じて状況変化への迅速な対応環境づくりを行います。


以上で生産設計の定義目的あるべき姿、生産設計を実現するための手法や切り口につきまして説明をさせていただきました。5つの切り口の詳細につきましては別の機会で説明させていただきます。



生産革新第20-5


株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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