第78回 生産設計によるコストダウン

「生産方式と設計方式」



1.製造業の生産形態に応じた設計方式の選択

皆さんは受注生産や見込み生産などの言葉は聞いたことがあると思いますが、簡単に言えばこれらの受注の仕方と生産の仕方の関係が生産形態ということになります。言い換えますと、何の情報をトリガーにして生産に着手するかという分類が生産形態ということになるのである。いわばこの生産形態とは作っている製品の種類や顧客の業種、業態によって決まってくる分類方法ということができます。大切なことはそれぞれの生産形態に応じた設計方式の選択が肝になってまいります。


2.見込み生産の設計方式

「見込み生産」と呼ばれる生産形態とは営業部門が作る販売予測や出荷予測を前提にして生産に着手する方法であってはっきりとした受注は決まっていないが、これくらいは売れるだろうからその分を作ろうとする方法である。この作り方は不特定多数に商品を販売する企業や製品在庫を持って販売を行う企業によくみられる生産方法であり、比較的生産品種数が少ないか、繰り返し性の高い商品の場合、また製品寿命の長い製品の場合よくつかわれる生産方法です。見込み生産の設計重要ポイントは
・企画の完成度が設計完成度を決める
・的確でタイムリーな先行開発が必要
・ライバルメーカーの動きに左右されるのでQCDトータルの取り組みになる
・標準化のレベルでQCDは決まる
・要素別の技術人材育成と技術伝承がポイント


3.受注生産の設計方式

「受注生産」という言葉もよく聞くと思いますが、この受注生産は顧客からの受注が確定した時点で設計・生産を開始する方法で、正式受注をトリガーとして設計・生産を開始する生産方式である。当然正式受注を前提に設計・生産を開始するので売れ残りリスクが発生しない作り方ということができますし、在庫の発生も非常に低く抑えられる生産方式ということができます。受注生産の設計重要ポイントは
・設計着手するための確定情報が設計完成度を決める
・営業と設計がタイアップして受注前活動が必要
・ものづくり主導の提案営業で売り上げ及び収益は決まる
・受注生産標準化は標準化マトリクスによる方針をまず立案すること
・属人的な「流用設計」から脱却して「流用設計の仕組みづくり」がポイント
・受注から出荷までのトータルリードタイム短縮が経営の課題に直結する
・顧客に近い技術人材育成と技術伝承がポイント


4.製造業における生産方式の種類と特徴

生産方式とはいわば物の作らせ方であり、物の流れや情報の流れを中心とした管理方法、および製造を順調に行わせるための各種管理活動の行い方と定義することができます。生産方式という分類で大切なのは、以下のポイントになる。
・生産活動を行う上で必要な情報の流れの方向性
・各種情報を生産計画など実務計画に転換する方法(具体的な指示)
・製造ものづくり現場に対する具体的な指示の出し方
・物の流れ方、流れる時間、リードタイムのコントロール方法
・飛び込み生産などの異常発生時の是正処置方法

以上のようなポイントを中心に分類したのが生産方式ということになりますが、この生産方式の種類や精度は実際の生産性や生産コストに非常に大きな影響を与える部分であります。
1)一般生産方式(プッシュ型生産)
・事前予測もしくは内示に基づいて生産計画を立てる
・生産計画は長期、月次、日程などのいろんなバリエーションがある
・基本的に納期指示であり、工程進捗はあまり管理しない。現場任せ

2)後工程引き生産方式(プル型生産)
・必要な量だけ作るがリードタイムが長い
・在庫は一定量以下には減らない。品種数が増えると在庫増大
・サプライヤーに過剰な負荷を与える

3)一気通貫システム
・徹底的なリードタイム短縮を切り口に、在庫削減や生産性向上、生産の安定化によるロスコストの低減を実現する
・工程間の通過時間を生産計画で詳細に規定することにより、停滞が発生しないモノ作りが実現できるようになります



5.一気通貫生産方式に転換していく

今まで3つの生産方式について述べてきたが、現在のような急激かつ大きな景気変動の場面において大きくコストを下げていくためには、従来とは違った新しい視点が必要である。抜本的にシステムを一気通貫システムに転換する必要があります。そして実際に生産の仕組みを一気通貫型に変え以下に挙げる生産の仕組みを変えていかなければなりません。一気通貫システムとは、先述した「一気通貫生産方式」とその生産方式に対応した「流用組み合わせ設計」から構成されます。



生産革新第20-5


1)流用組み合わせ設計方式とは
顧客の多様な要求にこたえつつも、製品パターンを制限し各種要素を組み合わせることで設計リードタイムの短縮及び低コストを実現する設計方式になります。実運用場面では「生産設計」にも取り組み製造コストの低減も実現します。そのベースになる基本思想は固変管理と情報整流になります。

2)一気通貫生産方式
モノの流れと情報の流れをコントロールし、圧倒的なリードタイム短縮を通じて生産性の向上、製造コストの低減を実現する生産手法です。生産管理機能の強化を通じて緻密な生産計画を立案するとともに、計画通りの生産を行える現場体質づくりをおこなっていきます。そのベースになる基本思想は停滞排除と情報制御になります。



生産革新第20-5


以上で、「一気通貫システム」につきまして概念的な説明をさせていただきました。次章は多くの企業が抱える設計開発部門の課題につきまして、もっと話を掘り下げて進めていきます。



株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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