第16回 「脱カンバンの生産革新」一気通貫生産方式のすすめ

5.一気通貫生産方式とは

今までプル型生産やカンバンの問題点を述べてきたが、総括すると現代の市場の要求レベルに対応するにはやや無理のある生産の仕組みであるということである。ではどの様な生産方式が現代の製造環境にマッチするのであろうか。私は今の環境に適応するためには一気通貫生産方式が最適であると考える(図表3)。
以下にその一気通貫生産方式の概要を示す。


一気通貫生産方式とは


一気通貫生産方式とは収益改善及び全社最適化の視点から開発された生産方式である。この一気通貫生産方式とは材料を初工程に投入したら最後の出荷工程まで一気に停滞することなく物を流していく生産方式で、各工程の通過時間は詳細な生産計画で規制していく形を取る。要は各工程の実作業時間だけを繋ぎ合わせた時間レベルの詳細な生産計画を立て、その計画通りに物を流して完成させる生産方式のことである。当然仕掛り発生ポイントであるストアは設定しないし、停滞することなくものを流すのでリードタイムは極めて短くなると同時に在庫量(仕掛り量)は極小化する事になる。

実際に従来の生産方式では各工程の同期性が薄く、各工程間に仕掛りが発生する場合が多かったのも事実である。特に機械加工工程と組立工程など生産の仕方、設備の利用度合いが大きく違うところでは生産計画自体も職場単位で作成することが多く、同期性も必然的に薄くなるため、仕掛りの増大やリードタイムの長期化など数多くの問題が発生していた。

一気通貫生産方式では出荷日を基準として全工程の生産計画(加工の初工程から最終組立、検査まで)を1本の生産計画線で繋いでいくために工程間の停滞が発生せず、必然的に仕掛り在庫も発生しない。機械加工や組立など製造方式の違う工程も同じ生産計画で動かしていくために同期性はきわめて高くなり、無在庫、無停滞、極めて短いリードタイムでの生産が可能になるのである。

ただこの一気通貫生産方式を実現するためには生産安定性の向上が不可欠である。実際に設備故障や品質不良率が高ければ停滞せずに物を流すことは不可能で、各工程の安定性が一気通貫生産方式に及ぼす影響は極めて高い。そのためこの生産方式を実現するためには生産安定性を上げる為の基礎改善が不可欠なのである。



6.一気通貫生産はプッシュ型生産方式

一気通貫生産はプッシュ型生産方式である。ただ過去のプッシュ型生産である押し込み生産方式とは根本的に異なる。過去の押し込み生産が工程能力やリードタイム、仕掛在庫などを考慮せず、一方的に長期スパン(月単位、3ヶ月単位)の生産計画に基づき材料投入を行っていたのに対して、一気通貫生産方式では顧客からの受注量だけを初工程に投入する(投入規制)ため余分な作りすぎは発生しないし、工程間に仕掛り在庫が溜まることはない。

いわば顧客からの受注量だけを生産着手する生産方式であるため、受注生産型の企業及び見込み生産から受注生産に切り替えようとする(生産革新)企業において大きな成果を発生させる生産方式である。

よく製造業の常識としてプッシュ型生産は最低レベルの生産方式と言われているが、それは間違いである。最低レベルなのは無計画に生産着手する過去の押し込み生産であってプッシュ型生産ではない。顧客から受けた注文量(確定受注)だけを一気に作り上げる生産方式は極めて理想に近いものであり、今後多くの企業が目指して行くべき究極の生産方式なのである。どうか製造業に広がっている誤った常識から脱却して冷静に事実を認識し、自社に最適な生産システムは何なのかを判断してほしいと思う。



7.一気通貫生産方式のメリット

一気通貫生産方式のメリットは色々とあるが、代表的なものとしては以下の項目がある。

  1. 工程連結を前提にしているため在庫発生ポイントが少なくなる、また必要量しか材料を投入しない
    → 在庫の抜本的削減、キャッシュフロー向上
  2. 詳細な生産計画を立案し計画通りに運用することにより、徹底した停滞時間の排除を実施する。
    → リードタイム短縮、製品廃棄量の削減、問題点の顕在化による改善促進
  3. ムダな作業(運搬や積み替えなど)の削減や細やかな作業時間管理の実行、停滞に関与する作業の削減
    → 生産性の向上、人員の定数是正、製造コストの低減
  4. 受注から出荷までの正確な工程管理による時間制御および多頻度生産による製品供給能力の向上
    → 納期遵守率の向上、欠品の削減、生産変動対応力の向上

上記は定性的な表現であるが、定量的にはリードタイム50~80%削減、在庫削減50%~75%程度の成果は多くの企業で実現している。 そして一気通貫生産方式で最も効果が大きいのは(抜本的な仕組みの改善を実施するので)改善効果が持続すると言うことである。一時的な成果の発現ではなく継続的に改善成果が続いていくからこそ、収益改善に大きく寄与することが出来るのである。


 日本インダストリアル・エンジニアリング協会 発行
「IEレビュー」 VOL.46 No.2 掲載記事に加筆訂正
株式会社アステックコンサルティング
代表取締役社長  岩室 宏
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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