第85回 生産性指標の設定と活用方法

生産性指標設定のノウハウ



1.標準時間(ST)設定は60点主義で

前回は製造業における直接労働生産性の生産活動における重要性を説明してきましたが、この章では実際にこの指標を導入しようとするときの注意事項、ノウハウ、陥りがちな過ちについてコンサルタントの視点から解説していきます。

まずは、指標の定義から真っ先に注目が行くのは標準時間設定だと思われます。自社には標準時間なんてない、どうやって標準時間を決めればよいのか?過去の実績時間なんて残っていない、今から全作業の標準時間を測定するのは不可能(時間的、工数的にムリ)等、いろいろとできない理由が浮かんでくることと思われます。これは日本人の特質とも言えますが、やるからには完璧を目指そう、100点満点を取ろうなどと考えた挙句の結果ではないでしょうか?我々のコンサルティングのスタート時にも同様の問題を提起される企業が多いのですが、今時点、自社には現場の状況を如実に見える化できる労働生産性という指標がない、という現状を顧みてほしいのです。ならば、多少精度が低くても何らかの指標で現場の見える化(数値化)をして第一歩を踏み出そうとは考えられないでしょうか?そうすることで、何も100点を取らなくでも、現状でできる範囲内でやれることをやろう、という発想が生まれてくるのだと思います。いかに少ない工数でより有用な指標を作れるか?がノウハウとなります。

【60点主義とは】
標準時間設定において、全作業の正しい標準時間を設定することは今すぐにはできないという職場がほとんどだと思われます。この時、多少精度が悪くても少しでも楽して手間を掛けずに、効率的に設定する方法を考えようと考えた時、その精度は60点(及第点)でいいので、スピード重視で早く指標を設定して改善活動に役立てようとする考え方です。
具体的には、たとえば各作業の標準時間は未設定(把握していない)だが

① 原価管理のための標準時間はデータベースとして設定されている(システム導入当時)
② 過去の作業着完記録は保存されている
③ 大まかにパターン分けすると、たとえば3通りの生産方法が存在する
④ 1個生産するのに大体30分程度の実績で計画を立てると守れる   ・・・等々

の事実関係があるのであれば、ある程度のベースが存在していることになります。
これらのデータからまずは、ざっくりとした標準時間を設定していくことが可能です。
前述の①~④の場合の簡易ST設定方法(考え方)を下記に示します。

① 原価ベースの標準時間が存在している
→設定時期が原価システム導入時で、以降メンテナンスができていないというパターンが散見されますが、まずはそのデータをSTとして運用することが可能です。
(到底、100点は無理ですが60点は取れる可能性が高い)
※60点が取れないような原価ベースであれば、そもそも原価計算が現状から乖離しており、予算差異が膨大になって使い物になっていないはずです。

② 過去の作業着完データが残っているのであれば、各作業の実績時間の最頻値をSTと設定する考え方が採用できます。平均値はトラブルで作業時間が異常に長くなった場合とか、着完入力忘れによりゼロ、もしくは異常に長いものが含まれるので推奨できません。

③ 大まかに作業時間を数通りに分けること(パターン化)ができる場合は、細かな例外は無視して、メイン品種のSTのみを数パターン設定し、他の少量生産品はメイン品種のグループに割りふることで、STを強制設定します。(下記グルーピング資料参照)

④ 守れる計画を立てるための1個当たりの時間を現場ではなく生産管理部隊が把握している場合もあります。過去の実績より「大体、この程度の時間を見込んでおけば作業は完了する」という時間であれば、当たらずとも遠からずのSTが設定できるはずです。

生産革新第20-5

2.直接労働生産性の目的を再認識するべき(すると60点主義が容認される)

前述の通り、60点主義で設定された標準時間(ST)で作業時間を設定したとしても、これでは大雑把すぎて正しい生産性がでないのでは?という心配が残るのも当然でしょう。
でも、そのSTを使って何をしようとしているのかを再度、考え直す必要があります。

今回の場合、STは直接労働生産性のベースとなり、
1) 改善の目標設定と進捗確認(結果指標)
2) 日々の指標変動から、課題を抽出する(見える化) という大きな目的があります。
この目的を達成するために、果たして精度の高いSTが必要でしょうか?

まず1)の改善進捗(生産性向上具合)を確認するために必要なのは、活動当初からの生産性向上比率であり、生産性+10%とか+20%等の数字です。絶対値である生産性80(たとえば)という数字にこだわるのであればSTの精度は必要ですが、活動当初は、その生産性の数字自体ではなく、半年後、1年後に何%向上したのか?その相対変化が重要です。よって、STは60点主義でも大きな問題にはならないのです。まずは1年後に何%改善できたかを示せればそれで良いわけです。もちろん、永久に60点主義のST(不正確のまま)では困ることは言うまでもありません。活動2年目、3年目に行くにつれ、正確なSTを設定していくことが重要で最終的には100点を目指した設定が必要です。

また、2)の見える化のための指標であれば、それこそ生産性の絶対値は不要であり、たとえば基準値(ベンチマーク)より10%以上下がった日は何が起きたのかを明確化し、その原因を解決していく活動ですので、必要なのは変化率(相対変化)のみです。ここでも生産性の絶対値は必ずしも必要はありません。よって、60点主義でのST設定でも問題点抽出は可能であり許容されます。但し、これも活動当初での話であり、2年目、3年目の推移の中でST精度を上げていくことが重要なのは言うまでもありません。


生産革新第20-5


3.生産性の設定範囲について

最後に生産性を設定する範囲(職場毎、ライン毎、小集団毎)の規模について説明します。製造業では多くの場合、小集団活動での活用が多く、その小集団(5~10人程度)毎に1つの指標を設定し運用されていりますのであまり意識をしないかもしれませんが、指標の対象範囲の設定は見える化に大きな影響を及ぼしますので注意が必要です。

たとえば30人の職場があり、そこで一つの生産性指標を設定した場合を考えてみましょう。間接時間がない場合、直接作業時間は8h×30人=240h/日となります。この膨大な時間を一塊の集団と考えた場合、もし、ある1人の担当工程でトラブルが発生して丸一日その担当者が仕事ができなかったとしても、そのロスは職場全体としてみれば8h/240h=▲3.3%となり、大した影響はないように見えます。もし、指標の異常ラインを▲5%と設定していたら、この日は異常にならないため、当該工程が丸1日停止していても誰も気に留めず原因追及もされず、改善のメスが入らなくなります。つまり指標の対象範囲を大きくし過ぎると見える化ができていない、ということになります。


もし、ここで30人の職場を各工程毎に5人程度で分割し小集団を組成していれば、先ほどの事例では 8h/(5人×8h)=▲20%の指標の低下がみられ確実に異常としてのアラームが鳴り、原因追及・対策への動きが出ることは疑いの余地がないでしょう。これが見える化ということです。

生産性指標の設定時にはその対象範囲(人員)をある程度小さくしないと異常の見える化ができず、改善が進まないということにも留意する必要があります。

株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 マネジメントコンサルタント 藤居 隆一
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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