第67回 部門・組織を越えた改善の進め方

組織横断型プロジェクトの進め方



1.組織横断型プロジェクトの例

全体最適な改善といってもその目的は企業によってさまざまだと思われる。以下に3つの活動目的に対する組織横断型プロジェクトの例を紹介する。


① コストダウン

部分最適になりやすいのがコストダウンの取組みの特徴である。たとえば、調達・外注プロジェクトでは調達先に対する要求を中心とした取組みに留まる場合が多いようだ。しかし調達・外注の問題の多くは自社に原因がある。部品図面仕様のちょっとした変更だけでも大きなコストダウンにつながる場合があることを考えると、取引先の改善とともに資材主幹で技術・製造・品管メンバー連携によるVA・VE的な取組みも有効である。 品質コストダウンといえば、品質指標(不良率やクレーム数)から関係部署に改善指示を出す、社外品質改善に傾きがちだ。しかしクレーム対応による過剰な検査や、要求以上の品質水準を求めることによる不良率や直行率の低下などの社内で発生する“見えない(品質)コスト”である社内品質コストの削減も重要な取組みである。当然、製造部門との連携がカギとなり、技術・資材部門の支援が必要となる。

 

② リードタイム短縮

リードタイム短縮は結果として得られるものではなく、狙っていくものであるとの認識が必要である。そう考えると生産管理部門が中心となって基準日程型計画によってリードタイム目標を決め活動を取り組む必要がある。図7は一品受注型生産の典型例である。受注から出荷までを情報タイミング図に描き、受注・出図・調達・製造・検査の各工程のリードタイムを決めていくことからわかるように、営業・技術・資材・製造・品管部門の各部門が取り組むこととなる。特に受注情報の確度の影響が大きいため、初期段階からの営業の参画がカギとなる。リードタイムは各工程のリードタイムだけではなく、工程間に発生する遅延が大きく影響する。したがって、工程間の情報の同期化により短縮するといった切り口が重要である。生産管理部門がコントロールタワーとなり同期化レベルを上げる取組みは、まさに組織横断型改善の典型といえる。


生産革新第20-5


③ 生産能力向上

生産能力向上のカギはボトルネック工程にある。ボトルネック中心の改善の是非が成果を決める。設備能力を上げる、稼働率を上げるといった取組みを中心に実施している企業が多いと思われるが、状況によっては短期的であってもボトルネックに人を集中的に掛けて効率を落としてでも能力バランスを上げる、という判断も必要になる。著者はコンサルティングを開始するときに必ず「貴社のボトルネックは何ですか?」と聞いているが、その時の回答の大半は「いくつもあります」だ。このことがボトルネック中心の改善の難しさを物語っている。ボトルネックを正しく把握するためには、ボトルネックは条件によって変化することの理解が必要なのである。生産能力向上改善を進める場合においても同様で、1stネックの改善が進めば、2ndネック以降が1stネックに移る条件も変化し、最終的には移行する。以上からプロジェクト体制には先を読む先見性と変化に追従できる逐次性が求められることがわかる。そのためには図8に示す全体最適化プロジェクトを発足して全体像を明確にし、下位プロジェクトの目標設定を行うとともに、変化点管理を行うことが求められる。このようなプロジェクトは長期継続型改善でもよく採用されているが、下位プロジェクトに対してのプログラム管理という意味合いを持つ。



生産革新第20-5


2.プロジェクトの上手な進め方

全体最適な視点が必要な改善活動で大切なのが、QCD(Quality・Cost・Delivery)を最適化するという考え方である。一方で、「Qualityファースト」という言葉も聞かれる。そもそも両者は相容れない。実務上はQCDの優先度を決めることになるが、その時の判断基準として有用なのがCOA(Constrain:制約・Optimize:最適・Accept:許容)である。QCD-COAの考え方は、QCDのどれを優先(C)し、どれを調整(O)し、そして残りを諦める(A)のかだ。調達部品を例にとると、初期~初期流動生産時のCOAはDQC、量産時はCQDを選ぶ場合が多いように思われる。量産開始後増産時に海外品でコストダウンしても、手直し工数がかかり、結果赤字といったケースが良く見受けられる。この例は、当初の戦略はQCDからCQDへの移行であったはずだが、調達コストを先述の“社内品質コスト”に付け替えただけの間違った戦術を取った事例であり、意外と思われるだろうが多くの企業で見られる。Qualityファーストは安全を除くとほぼすべての企業にとって絶対的な価値観であるし、部門ごとにQCDそれぞれの絶対的価値観があるはずだ。QCDそれぞれを明確に定義して、それらを相対的にどのように均衡させるかを常に考えることが全体最適化プロジェクトの進め方なのである。



株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 マネジメントコンサルタント 吉久 康樹
生産革新講座 連載
第105回  生産管理の重要性 ~製造メーカーにおける生産管理の位置づけ~(2024.10.9)
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第15回~第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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