第46回 「設計開発部門改革の第一歩」

さてこの回では、設計改善のための5つの切り口と設計開発部門の最も基本である設計思想の説明を行います。

1.製造業における設計改善のための5つの切り口

  1. ① 確定情報での設計
ここでは設計情報入手のルールを見直していくことにより、非直行業務発生の未然防止を図ります。具体的には量産型の商品では主要顧客、販売店、業界専門家の意見をどう入手するかになりますし、一品受注商品では見積もり仕様書の精度を向上させることにより見積もり仕様書のグレーな部分をなくすことで、後工程の詳細設計で発生する手戻りを削減することができます。また見積もり仕様書についてもパワーのかけ方が重要で、案件の重み付けを行い、その重みに応じたパワー配分により受注確率をあげる取り組みも重要です。

  1. ② 基準日程の管理
多くの設計開発部門で見受けられるのが、担当者任せによる業務推進であったり、出図日間際になって発生する問題の表面化で混乱が発生したりしています。これらを改善するためには業務フローを明確にしてそれぞれの作業単位毎の標準時間(スペック読み、参照モデル検索、計画設計、主要計算、作図、検図、資料作成等)を設定して基準日程を作成し、その予定実績管理を行っていくことにより改善されていきます。標準時間どおりに出来ない理由の中に改善のネタがあります。

  1. ③ 見える化設計
受注~出荷まで、或いは企画書発行~生産開始までの工程を大日程とし、設計着手~設計完了までの工程を中日程とします。その中日程を週間で切り出し、1週間の週間スケジュールを管理することにより見える化設計を実現していきます。週間スケジュールを作成する担当者は業務の優先順位を考慮したリスケジューリングや飛び込み業務の削減検討の為に活用し、管理者は業務負荷の調整や若手社員の育成に用いることが出来ます。ともすれば設計者は朝出社して優先順位の高い順に仕事をして夜9時がきたら退社する生活になっていますが、「見える化」により自分で1週間の予定をリスケジューリングしながら、定時退社日を設定するマネージメント力を育成することが重要です。

  1. ④ 属人化業務の削減
設計部門でよくありがちな傾向として、出来る人に仕事が集中してこの仕事はこの人しか出来ないとか特定な人の残業時間が突出して多くなったり、経験豊かなベテランが退社したのでとたんに設計が出来なくなったり時間がかかったりしてしまう。これを防ぐ為には、技能の固定化・技術伝承・業務フロー改善・DRによる教育・設計体制の見直しが必要です。目先の業務推進のみを考えた体制よりも業務(縦軸)育成(横軸)を考慮したマトリックス体制が重要です。

  1. ⑤ 設計方式の転換
設計部門の大きな「ムダ」として上げられるのが「新図を書くムダです」。せっかく過去に設計した図面があるのに、その図面がうまく検索できなかったりCADルールが整備されていない為に他人の書いた図面が流用できなかったり、変更管理が不十分でリンクが切れてファイルが開かなくなったりして結果として新図を作成しています。
これから脱却して「流用設計」「分割設計」「編集設計」を構築する必要があります。 (図1)

生産革新第20-5

さて、「流用設計」「分割設計」「編集設計」を進めていきますと究極は「標準化」に行き着きます。標準化については詳しく次回説明いたします。

それでは、設計開発部門の最も重要で会社の哲学ともいえます、設計思想につきまして説明を行います。

2.基本設計思想と個別設計思想

設計思想とは設計時に設計者のバックボーンとなる考え方で、言わば設計における価値判断基準であり、行動指針と言うことが出来ます。部品選択や機能選択を行う場合の比較基準となり、非常に重要な考え方になります。それでは基本設計思想と個別設計思想につきまして説明させていただきます。 まず基本設計思想ですが、企業としての設計商品化に対する基本的な考え方であり企業としての最も基本的な戦略であり、あらゆる製造業としての企業としての進むべき方向性を決定する極めて重要な考え方です。それでは基本設計思想の実例を挙げて説明します。

 UNIXの基本設計思想(哲学)は下記のようになります。
  ・スモール・イズ・ビューティフル
  ・一つのプログラムには一つのことをうまくやらせる
  ・できるだけ早く試作を作成する
  ・効率より移植性
  ・過度の対話的インタフェースを避ける

 デロンギ(伊・家電)の基本設計思想は下記のようになります。
  ・使う人の安全を第一に考えた優しい設計

 F社(日・OA)の基本設計思想は下記のようになります。
  ・使用済み機器の最大限活用
  ・リユース設計
   分離設計、冗長設計、分解設計

次に個別設計思想とは、商品または商品群別に設定する設計思想です。基本設計思想をベースにしながら、個別の商品または商品群別に特徴を持った思想を付加することであり、商品戦略・商品コンセプトそのものです。

注意事項ですが、設計思想は設計部門だけで決定できるものではないという点です。本来は企業戦略及び製品戦略からブレイクダウンされていくものであり、営業、企画・開発、設計、調達、製造など関係者の間で設計思想を合意形成していくことが大切です。 設計思想が明確になってきますと次にその基本思想に添った形での標準化を進める必要があります。次回はその標準化につきましてお話してまいります。

株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第105回  生産管理の重要性 ~製造メーカーにおける生産管理の位置づけ~(2024.10.9)
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第15回~第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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