第71回 品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る

はじめに



価値観や生活様式の多様化により、モノづくりもかつての少品種大量生産から、多品種少量生産へ移行し商品サイクルも短命化しています。また日本のモノづくりが海外へシフトして久しいですが、かつての安かれ悪かれの海外生産品の技術と品質レベルの追従が激しく、品目によっては、はるかに海外品に先行されているものもあるのが実態です。日本のモノづくりにおける環境は、深刻な労働人口減少と技術の継承課題や益々進化する IT化で大きく変化してきています。しかし日本のモノづくりの「高品質」というブランドは、現在も最大の武器であることは間違いないでしょう。本コラムが経営の生命線とも言える品質に関して、基本を見直し顧客満足を獲得し、維持と改善を図りながら企業の体質改善を図るきっかけになれば幸いです。



1.品質とは

そもそも品質が良いとか悪いとか言いますが、「品質とは何か」を突き詰めると、「お客様が支払った対価に対して満足しているか」という事になります。すなわち「顧客満足度」と言い換えられます。特にモノづくりの会社に於いては、品質は経営の最重要項目になり、会社経営方針に品質第一を掲げている会社は、日本だけでなく海外の会社でも多くみられます。


2.品質管理の変遷

日本における品質管理の変遷は大きく3つの世代で分けられます。第一世代は、第二次大戦後にアメリカ軍から品質管理(QC)の概念が導入され、1950年にはデミング博士により統計的品質管理(SQC)が紹介された時期に当たります。第二世代は1980年代で、活動の対象を製造部門だけでなく、全社的な品質管理TQC(Total Quality Control)へ発展しまた。ちょうど日本が“Japan as No1”と、もてはやされた頃です。その後、第三世代として、会社全体の経営品質を高める総合的品質管理TQM(Total Quality Management)へと進化しました。ビジョン、戦略の立案と展開、プロセス管理、業績なども含み、企業活動の全てを視野に入れた活動になってきています。


3.品質管理とは?

時代を経ることで品質管理が関わる範囲は広がっていきました。狭義での品質管理は、コントロールとしての品質管理(Quality Control)で、お客様にとって、品質は良くて当たり前(当たり前品質)で、実際の製品やサービスが一定上の水準にあることを保証する品質管理の活動になります。広義には、品質に関わる機能全般を管理するための品質マネジメント(Quality Management)として理解されています。製品自体の品質だけでなく、製品品質を向上するための取り組みや製品の品質を会社の仕組みによって保証する取り組みも含み、その取り扱う範囲は生産システム、プロセス、営業活動、サービス、保全活動等、会社の業務全体から社会・地球環境へ拡大しています。


4.品質に対してのお客様の要求

お客様にとって製品が正常に機能するのは当然で、不満足がないことを「当たり前品質」といいます。また、お客様の期待以上の満足をもたらすことを「魅力的品質」といいます。「当たり前品質」には、安全性、環境、信頼性も含まれ、製造品質に依存するところが多くなっています。「魅力的品質」は差別化する上で有効ではありますが、直ぐに他社に追いつかれて優位性が無くなっていきます。如何に優位性を確保し続けるかに企画品質や設計品質の頑張り所があります。


5.不良への事前対策と事後対策

品質改善に関しては、予防対策、発生時点の対策と事後対策の3つの局面があります。それぞれの具体的な内容は以下の表にまとめた通りです。言うまでもなく不良やクレームに対しての最善の対策は、事前検討の充実による問題発生の未然防止になります。過去に発生したクレームや大きな問題の真因を究明し、再発させない対策を行うことが基本です。


生産革新第20-5


6.品質保証(Quality Assurance)と品質管理(Quality Control)の違い

品質マネジメント上、「品質保証」と「品質管理」の区別は明確ではありますが、実際には会社の体制上、組織が明確に定義されており両機能がきっちりと切り分けられている場合があれば、定義も機能も明確にされていない場合もあります。組織名だけでその部署機能の把握ができないことが多く、特に「品質管理」の定義と機能が曖昧な会社が多いように見受けられます。本来「品質保証」は、“顧客・社会のニーズを満たすことを確実に確認し、実証する為に、組織が行う体系的な活動”となっています。具体的には、製品の企画段階、設計、製造、市場、廃棄に至る全てのステップに於いて、品質確保の活動を行うことです。お客様に対して安心して長く使用できるという品質を担保する活動を行います。すなわち、「品質保証」は、内部(社内)に対して厳しい監視と牽制の義務と、外部(お客様)に対しては、要求品質を満足しているという事を保証する責任があります。その為、会社の中では警察に、それ以外の部署はドロボーにたとえられる事もあります。大きな問題が発生した際は、「品質保証」が説明責任と是正処置活動の中心になります。一方「品質管理」は、狭義には、”製品の一定品質を保つ“という事になりますが、広義としては、 “買い手の要求にあった品質の品物またはサービスを効果的、かつ効率的に達成する為の手段の体系“と理解すべきです。目的を達成するため、企業の生産活動全般にかかわる活動に対しての仕組みを機能させ、マネジメントする責任があります。したがって改善活動の維持と向上を継続しなければならず、品質の管理サイクル(PDCA/SDCA)を回す必要があります。


生産革新第20-5

会社組織上、「品質保証」と「品質管理」の区分が明確ではない場合、品質部門では品質保証機能により重点が置かれるようになり、結果的に「品質改善」の主体である製造部門に品質管理業務の多くを担わせて、単なる窓口業務となっている例が多く見られます。大切なのは自社の「品質保証」、「品質管理」、「品質改善」それぞれの役割をどのように設計し、会社組織・機能に反映させるかです。


次回のコラムは、品質保証の役割に関して詳しく説明して参ります。



株式会社アステックコンサルティング
生産革新講座 連載
第105回  生産管理の重要性 ~製造メーカーにおける生産管理の位置づけ~(2024.10.9)
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第15回~第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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