第69回 指標管理による業務革新の「見える化」

1.システムのパフォーマンスを「見える化」する

システム問題の是正は、システム全体のパフォーマンスの変化として「見える化」し評価される必要がある。ただし階層(トップマネジメント、ミドルマネジメント、オペレーション)毎にシステムへの関わり方は違うため、評価方法は異なってくるであろう。図5に示すように、トップ層は業績を切り口として過去、現在、未来の長い時間軸での判断が求められる。主に金額中心の議論が必要となる。オペレーション層は革新の実行部隊であるため日々の業務のパフォーマンスを中心に判断の責任を持つ。今日何個作ったといった物量(数量)の議論を行う。したがってシステム全体はミドルマネジメントに依る面が大きくなる。金額と数量の読み替えによってトップとオペレーションを繋ぐ役割が求められるであろう。


生産革新第20-5


パフォーマンス評価結果を階層間で共有するためには数値を用いた定量評価が必須である。通常、システムの定量的な評価には、第68回記載の「図2 システム内外のモノや情報の流れ」のようにシステムをブラックボックスと考えて、インプットとアウトプットの差分や比を取ることによって評価する。インプットとアウトプットにどのような指標を置くかは、「どのようなことを行ってどうなるか」を問うことと同じである。システムの抱える問題に合った指標の設計が必要となる。指標の意味は結果を見える化するだけではなく、業務革新の目的や方向性を描くことでもあるのだ。


2.PL,BSによるパフォーマンスの見える化

通常、業務革新の成否は経営的な視点で判断されるであろう。したがってトップマネジメントのシステム評価は最終的にはPLやBSを用いた財務指標が活用されることになる。その中でも特に効率性や収益力を示す以下の指標が重要である。効率性指標の代表例に売上高利益率(利益÷売上高)がある。利益、売上高ともにシステムのアウトプットではある。ただし利益は売上高とインプットに紐付く費用の差であるためシステムの状態を測ることができる。しかし先述の通りで、“どのようなことを行うのか”が明確とは言えない。あくまでも業績(結果)を評価する指標としての位置付けと理解すべきである。収益力指標には当期純利益に対する総資本比率であるROA(Return оn Assets:総資本利益率)や当期純利益に対する自己資本の比率であるROE(Returnоn Equity:自己資本利益率)などがある。インプットとアウトプットの関係から資本の適正活用による利益向上が要求される指標であることが理解されるであろう。売上高には、原材仕入れ、商品仕入れ、外注加工費などの外部リソース(外部システム)により生み出された価値(金額)が含まれる。そこで売上高からそれら外部購入費を引くことで付加価値(金額)が出る。したがってこの付加価値はシステム内部の状態を表すことが期待できる。 損益分岐点分析で用いられる損益分岐点比率に近い指標に固定費・付加価値比率(固定費÷付加価値)がある。固定費の見直しにより付加価値向上を図ることがその意味になるのだ。


3.生産性指標によるパフォーマンスの見える化

システム内部の状態を評価する場合、ROAやROE、それに固定費・付加価値比率が有効であることが分かった。付加価値を用いた類似の指標に付加価値生産性がある。付加価値生産性は分子にアウトプットである付加価値を置き、分母のインプットに何を置くかによって資本生産性と労働生産性の二つに分けられる。資本生産性は(1)式の通り、設備等の資本が付加価値創出に対してどの程度寄与したかを示す指標である。労働生産性は(2)式に示すように、労働力が付加価値創出に対してどの程度寄与したかを示す指標である。前者とROAやROE、後者と固定費・付加価値比率の関連性が読み取れるであろう。システムレベルでの指標評価を考えた場合、この付加価値生産性を軸に指標設計を行うことで、業務と業績との対応関係を見える化することとなる。



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資本生産性と労働生産性は(3)式に示すように資本装備率によって関係付けられる。従業員数も資本ストックもともに外部からインプットされた“お金”をシステム内で変換したものであり、システムの状態を示す指標であるとともに業務革新の目的・方向性を明示してくれる。



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大量生産のような時代では労働生産性に対して資本生産性は製造業ではより重要な指標であったが、変化が激しく多品種少量生産が当たり前となった現代においては資本ストックの増強は容易では無く短中期的には固定化される。そのような状況では労働生産性の重要性が高い。今後IT化により業務の自動化が進むことで資本生産性の意義は増すと考えられるが、現状、一般的な業務を考える上では労働生産性の重要性の方が高いと考えて良いであろう。しかし業務革新を謳う以上、労働生産性から資本生産性重視へのシステム状態の変化も想定して指標設定を行う必要である。

重要なのはインプットとして変動の大きい指標を用いることである。コンサルティングの中でも注意喚起している事であるが、短中期的であってもシステム内部では部署毎や工程毎で労働生産性と資本生産性の重点の置き方に違いが出ることもあることに留意が必要である。



4.労働生産性指標の使い方

以下に労働生産性の基本式である(1)式を応用した(4),(5)式を示す。


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(4)式は(1)式に対して分子を付加価値から出来高数量に替えており、出来高生産性と呼ぶ場合がある。経営数値(金額)に比べてより業務に近い数値であり即応性が高いというメリットがある。しかし生産に要する負荷(工数)にばらつきがあると (1)式との間にずれが発生する。(5)式の分子はある業務にかけるべき時間(標準時間)とある業務の出来高数量の積である。出来高量に応じた適正な時間を意味しており、業務に“かけるべき時間”である。 この場合、商品毎の工数差は解消できるが標準時間整備に手間が掛かる。(4),(5)式ともにマージン(売価に対する利益)の分だけ売上高(金額指標)とずれることとなる。“金額”と“数量”を結び付けることを考えると無次元の (5)式が望ましいであろう。(5)式の労働生産性値を介して、業務のパフォーマンスを金額ベースに変換し、ウォーターフォールチャートなどの手法を用いて業績の見える化を行うのが効果的である。

(5)式の分母は各従業員の勤務時間の合計時間である。業務に“かけた時間”であり、従業員数では表されない残業、休日出勤、場合によっては作業ロスなども含んだ指標である。

総労働時間を業務内容で細分化すると図6のようになる。ここでは製造部門の例を挙げている。他の部門であっても自業務を主業務、付帯・付随業務、ムダの3つに分類するという意味では考え方は同じである。間接時間には会議や行事など業務の出来高に繋がらない時間が含まれる。損失時間はトラブルや突発のアイドル時間、切替時間は業務の変わり目の準備などが該当する。

基準時間は理想的な業務を想定したときの時間(≒あるべき姿)と考えればよいであろう。

(5)式の分母を図6の各時間(直接、実働、有効...。)に置き換えることで異なる労働生産性指標が得られる。それら指標値を比較し差分をとる(グレー部分を抽出する)ことによって内部システムで起きた様々なプロセスに伴うロス、ムダといった見えないコストの見える化ができるのだ。



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ちなみに外部に出ていった費用の影響を排除してシステム内部のみを評価する指標が(6)式に示すCPI(Cash Production Index)である。先述の付加価値では売上高から外部購入費を引いたが、システム内部起因で発生したロス含めた外部流出コストを引くことで稼ぐ力を定義する考え方である。付加価値よりもシステム内部の機能の良否に敏感で反応することが期待できる。


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5.システム内部指標を用いたパフォーマンスの見える化

それでは実際にシステム内部の機能改善を行ったことによるパフォーマンスの変化を評価するにはどのようにしたら良いのであろうか。システム内部からパフォーマンスを見える化するためには図5で検討したシステム構造から顕在化した問題点に着目し、関連するサブシステムのインプットとアウトプットを定義する必要がある。インプットは具体的な改善内容であり、数値化される場合もあれば定性的な場合もある。一方、アウトプットはそのサブシステムからのアウトプットであるとともに、システムに対する内部制御因子である。システムのアウトプットに先行して現れる先行指標である。その時、システムのアウトプット(もしくは両者の比)が結果指標となる。当然ながらサブシステムのアウトプットである先行指標はシステムの一面しか見える化できない。システム全体の評価のためには複数の先行指標を組み合わせて多面的に見る必要がある。システム内部指標を選ぶ場合、その指標に対してアウトプットがどのような反応を示すかを予想することが重要である。図7の青破線の場合、具体的な改善による効果(図では横軸のインプット)に対してシステムのアウトプットは直線的に反応する。一方で緑破線は早い段階で効果が表れ、赤破線の場合は遅れて効果が表れる場合である。パフォーマンスの見える化の目的は、改善の効果検証とタイムリーな軌道修正にある。効果が早く表れて油断する、効果が中々出ずに諦める、工場革新の中でたびたび見られる風景である。インプットとアウトプットの関係性を予測することで正しい状況判断が可能となるのだ。


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次回最終回は、時間指標の紹介と指標を用いた見える化による業務革新の事例紹介を行う。



株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 マネジメントコンサルタント 吉久 康樹
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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