第66回 部門・組織を越えた改善の進め方

1.組織構造上の問題の原因と背景

前述の例以外にも組織構造上の問題は多数ある。それらを俯瞰することで見えてくる原因とその背景は、大きくは以下のように分類でき、部門間連携の不足や不備に結びつくことが多い。


① 自社のあるべき姿が描けていない

中長期計画を実現するため、ビジネスモデルを見直して自社のあるべき姿を再検討する必要があっても、具体的な議論が進まない。市場・顧客要求と現場との間のギャップを定量的に把握する仕組みがないことが背景にあり、悪い言い方をすると部署間で責任の擦り合いに終始することとなる。

 

② 改善の方向性のズレが是正できない

あるべき姿に対する改善アプローチが明確に示されていない、もしくは途中でずれてしまうことで、改善の方向性に不整合が発生したことが考えられる。改善マネジメント能力の不足が背景にある。

 

③ バリューチェーンの設計ができていない

業務フローはあるものの、その記述は概略に留まっており、実務フローと大きく異なっている会社が多い。業務設計上の不足や不備は意外と見つけにくい上に、バリューチェーンの効率を大きく低下させる要因でもある。

 

④ 定常業務の定期的な見直しができていない

過去に大規模なシステム導入を行った会社でよく見られるが、システム機能の多くが有効に活用されていない。これはマスター整備の仕組み不備の問題だけではなく、環境変化に対して業務をどのように変えていくか、という視点が持てていないことも背景にある。



2.組織横断型改善推進のポイント

組織横断型改善の実行ステップは概略5つのステップからなる。

① トップダウンであるべき姿を描く

② プロジェクトチーム編成を行う

③ アクションプランを立案する

④ プロジェクト実施と成果の評価を行う

⑤ 定常組織への展開を行う


それでは改善を進める上でどのような取組みが重要となるのだろうか。 改善活動を始めるに当たり、最も重要となるのは自社のあるべき姿を明確にすることである。その任を担うのが全体最適化事務局であり、トップダウンで提示された目標の具体化が求められる。複数の価値観の異なる部門からのメンバーが関わるプロジェクトにおいて全員があるべき姿をしっかりと共有することが必要であり、事務局はトップの意向を十分考慮して適切な管理指標の設定を行い、適切な人選と動機づけによりチームを編成すべきだ。具体的な取組みを検討するために有効なのが図5に示す「生産管理基本モデル」の作成である。


生産革新第20-5


サプライチェーンの中でモノと情報の流れを同時に描くことで、必要とされるリードタイムや在庫、生産能力などの成果指標が明確になってくる。特にバリューチェーンにおける情報の流れを精緻に検討するためには図6の「情報タイミング図」を用いることとなる。


生産革新第20-5


スイムレーンチャート形式の図であることから業務フロー図と似たような書式と思われるかも知れないが、各部門間を経由する情報を時間軸に並べることがその特徴である。情報のインプットとアウトプットは時系列上に並ぶため、情報の断絶や不足、遅れを明らかにすることができる。プロジェクトの具体的な活動は、トップから要求される目標実現のためのアクションプラン(実行計画)づくりから始まる。組織横断型プロジェクトの場合、アクションプランで各部門の取組みの整合性をしっかりと取る必要がある。そして、プロジェクトリーダーには改善活動の進捗を維持管理する役割が求められる。また活動の状況を正確に測るために、プロセス監視のための指標を決定するのもこのタイミングであり、指標設定後は定期的に成果指標との対比を取ることとなる。プロジェクトリーダーはすべてのメンバーのベクトルが一致するようにマネジメントし、出身母体の異なるメンバーが全体最適思考を持って取り組める環境を整えることが求められる。 事務局はプロジェクトリーダーからの要請に応じて人的資源手配や部門間調整を行い、活動の方向性の修正指示を出すこととなる。事務局(特に専任)とプロジェクトリーダーのコミュニケーションが改善活動を成功させるために重要であることは言うまでもない。

組織横断改善活動において最終ゴールは、得られた成果を標準化により固定化することである。図4に示した通り、プロジェクトリーダーは得られた技術やノウハウをまとめて、定常業務として遂行すべき部門に展開し、経営層に対して中長期計画に反映させるべき提案を行う必要がある。したがってプロジェクトリーダーは活動初期の段階からどのような成果物を出すかを明確にすべきだ。特に生産管理改善の場合、近年の動向ではITシステムへの成果の埋め込みが最終ゴールとなりつつある。したがって、マスターデータ類のメンテナンスも含めた議論は、改善活動の到達点が見通せてきた段階で関係部門としっかりと調整し、活動終了までに確実に引き渡すべきである。環境変化やシステムの更新があった場合、再び改善が必要となる場面が出てくると思われる。基本的には展開を受けた部門の中で対応することを基本とするが、プロジェクトを発動すべき条件は明確にしておくことを勧める。



株式会社アステックコンサルティング
コンサルティング本部 マネジメントコンサルタント 吉久 康樹
生産革新講座 連載
第104回  新製品の企画開発の進め方(3/3)(2023.3.13)
第103回  新製品の企画開発の進め方(2/3)(2023.2.20)
第102回  新製品の企画開発の進め方(1/3)(2023.1.30)
第101回  原価設計と運用(3/3)(2023.1.12)
第100回  原価設計と運用(2/3)(2022.12.19)
第99回  原価設計と運用(1/3)(2022.11.28)
第98回  経営成果につながる小集団活動(3/3)(2022.11.16)
第97回  経営成果につながる小集団活動(2/3)(2022.10.18)
第96回  経営成果につながる小集団活動(1/3)(2022.9.26)
第95回  調達を機軸とした企業変革力の強化(3/3)(2022.9.5)
第94回  調達を機軸とした企業変革力の強化(2/3)(2022.8.23)
第93回  調達を機軸とした企業変革力の強化(1/3)(2022.7.25)
第92回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(3/3)(2022.7.4)
第91回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(2/3)(2022.6.13)
第90回  新商品開発の進め方~開発と量産導入(1/3)(2022.5.30)
第89回  間接部門の働き方改革(3/3)(2022.5.18)
第88回  間接部門の働き方改革(2/3)(2022.4.14)
第87回  間接部門の働き方改革(1/3)(2022.3.25)
第86回  生産性指標の設定と活用方法(3/3)(2022.2.28)
第85回  生産性指標の設定と活用方法(2/3)(2022.2.7)
第84回  生産性指標の設定と活用方法(1/3)(2022.1.19)
第83回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(3/3)(2021.2.22)
第82回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(2/3)(2021.2.8)
第81回  コスト・在庫の適正化につながる現場改善(1/3)(2021.1.25)
第80回  生産設計によるコストダウン(3/3)(2021.1.12)
第79回  生産設計によるコストダウン(2/3)(2020.12.21)
第78回  生産設計によるコストダウン(1/3)(2020.12.7)
第77回  生産管理システムを活かした改善(3/3)(2020.11.24)
第76回  生産管理システムを活かした改善(2/3)(2020.11.9)
第75回  生産管理システムを活かした改善(1/3)(2020.10.27)
第74回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(4/4)(2020.10.12)
第73回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(3/4)(2020.9.29)
第72回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(2/4)(2020.9.14)
第71回  品質で顧客満足を獲得し企業の体質強化を図る(1/4)(2020.8.24)
第70回  指標管理による業務革新の「見える化」(3/3)(2020.8.3)
第69回  指標管理による業務革新の「見える化」(2/3)(2020.7.20)
第68回  指標管理による業務革新の「見える化」(1/3)(2020.7.6)
第67回  部門・組織を越えた改善の進め方(3/3)(2020.6.22)
第66回  部門・組織を越えた改善の進め方(2/3)(2020.6.8)
第65回  部門・組織を越えた改善の進め方(1/3)(2020.5.26)
第64回  全体最適型改善のススメ(3/3)(2020.5.15)
第63回  全体最適型改善のススメ(2/3)(2020.4.27)
第62回  全体最適型改善のススメ(1/3)(2020.4.6)
第61回  攻めの設備保全(3/3)(2019.8.5)
第60回  攻めの設備保全(2/3)(2019.7.22)
第59回  攻めの設備保全(1/3)(2019.7.1)
第58回  食品メーカーの生産性革命!(3/3)(2019.6.17)
第57回  食品メーカーの生産性革命!(2/3)(2019.6.3)
第56回  食品メーカーの生産性革命!(1/3)(2019.5.20)
第55回  コストの見える化(3/3)(2019.5.8)
第54回  コストの見える化(2/3)(2019.4.15)
第53回  コストの見える化(1/3)(2019.4.1)
第52回  強い管理職をつくる!(3/3)(2019.3.18)
第51回  強い管理職をつくる!(2/3)(2019.3.4)
第50回  強い管理職をつくる!(1/3)(2019.2.18)
第49回  設計開発部門改革の第一歩(5/5)(2019.2.4)
第48回  設計開発部門改革の第一歩(4/5)(2019.1.21)
第47回  設計開発部門改革の第一歩(3/5)(2019.1.7)
第46回  設計開発部門改革の第一歩(2/5)(2018.12.17)
第45回  設計開発部門改革の第一歩(1/5)(2018.12.3)
第44回  鋳物工場の生産性向上(3/3)(2018.11.19)
第43回  鋳物工場の生産性向上(2/3)(2018.11.5)
第42回  鋳物工場の生産性向上(1/3)(2018.10.22)
第41回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(3/3)(2018.10.1)
第40回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(2/3)(2018.9.18)
第39回  食品工場の生産性向上のための人員管理術(1/3)(2018.9.5)
第38回  一品受注型企業のリードタイム短縮(3/3)(2018.8.20)
第37回  一品受注型企業のリードタイム短縮(2/3)(2018.8.2)
第36回  一品受注型企業のリードタイム短縮(1/3)(2018.7.17)
第35回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(3/3)(2018.7.4)
第34回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(2/3)(2018.6.5)
第33回  モノを揃えてなんぼの調達・外注管理(1/3)(2018.5.23)
第32回  機械加工職場の生産性向上(3/3)(2018.6.27)
第31回  機械加工職場の生産性向上(2/3)(2018.6.11)
第30回  機械加工職場の生産性向上(1/3)(2018.4.24)
第29回  一気通貫生産のバリエーション化(3/3)(2017.6.19)
第28回  一気通貫生産のバリエーション化(2/3)(2017.5.19)
第27回  一気通貫生産のバリエーション化(1/3)(2017.4.18)
第26回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(3/3)(2017.3.22)
第25回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(2/3)(2017.2.21)
第24回  「仕組みを変える」とは何を変えるのか(1/3)(2017.1.24)
第23回  時代環境と変えるべきもの(3/3)(2016.12.13)
第22回  時代環境と変えるべきもの(2/3)(2016.11.15)
第21回  時代環境と変えるべきもの(1/3)(2016.10.18)
第20回  改革の成否を決める教育の重要性(2015.2.17)
第19回  生産革新の方向性(2014.6.20)
第18回  改善戦略が必要な時代!(2014.5.8)
第17回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(3/3)(2013.8.12)
第16回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(2/3)(2013.7.5)
第15回  「脱カンバンの生産革新」 一気通貫方式のすすめ(1/3)(2013.5.28)
第14回  時代は経営視点からの改善を必要としている(2/2)(2013.3.21)
第13回  時代は経営視点からの改善を必要としている(1/2)(2013.2.13)
第12回  現場改善だけでは成果につながらない(3/3)(2013.1.16)
第11回  現場改善だけでは成果につながらない(2/3)(2012.12.11)
第10回  現場改善だけでは成果につながらない(1/3)(2012.11.12)
第9回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(3/3)(2012.10.12)
第8回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(2/3)(2012.09.26)
第7回  一気通貫生産方式の基本的な考え方(1/3)(2012.08.20)
第6回  仕組みを変えればコストは下がる(6/6)「生産設計によるコストダウン」(2012.02.27)
第5回  仕組みを変えればコストは下がる(5/6)「設計によるコストダウン」(2012.02.03)
第4回  仕組みを変えればコストは下がる(4/6)「生産の流れをコントロールする」(2011.12.28)
第3回  仕組みを変えればコストは下がる(3/6)「生産の仕組み自体を変えていく」(2011.09.26)
第2回  仕組みを変えればコストは下がる(2/6)「生産管理の仕組みを変える」(2011.08.29)
第1回  仕組みを変えればコストは下がる(1/6)「コストは狙って下げるもの!」(2011.08.08)

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